スブドの初期の発展を考えると、グルジェフのシステムについて触れざるを得ないでしょう。いろいろな解説書やインターネット上の資料を見ると、スブドはグルジェフの思想的な影響を受けてから広まり、有名になっていったというような説明がまことしやかに囁かれています。これは本当のことでしょうか。

このことに触れる前に、グルジェフと彼の思想について述べておく必要があるでしょう。
ゲオルギー・イヴァノヴィッチ・グルジェフは、1866年、アルメニアに生まれた神秘主義者です。同時に、著述家・舞踏作家・作曲家として知られています。ロシア、フランス、アメリカなどで活動しました。


グルジェフの名前を知らなくても、性格分析に用いられるエニアグラムというツールをご存知の方は、たくさんいらっしゃるかと思います。このツールは、歴史的にみると、グルジェフが最初に用いた(発明した?)ということがほぼ確実視されています。また、彼の楽曲は、ジャズピアニストとして高名なキース・ジャレットが演奏し、アルバムを制作しています。

彼は若いころ、東洋を遍歴し、その後、西洋で活躍しました。20世紀最大の神秘思想家という評価もあれば、「変なおじさん」という残念な評価もあり、意見は両極端に分かれます。私個人の感覚で言いますと、現代でいえば、分野は違いますが、Apple社の創設者、スティーヴ・ジョブズのような人だったのだろうと思います。

私自身は、グルジェフシステムの経験はありませんので、正確なところはわかりません。彼の著作は数冊読んだことはあります。こうした状況で、彼と彼の思想を語るのは、ややおこがましいのですが、一般社会でのグルジェフの理解を下にまとめてみます。

  • グルジェフは、通常の人間は牢獄にいるようなもので、自由はなく、さまざまな規則にがんじからめになった自由意志を持たない<機械>であるとみなす。グルジェフは、自分が望んでいるように行動ししたり、思考したり、感情を抱いたりしているのではなく、すべて起こるにまかせているに過ぎないという。そして、分別のある人間ならば、<機械>であることを止め、牢獄から脱出することを考えると説く。この際、すでに牢獄を出た人間がいること、また牢獄を出ようとする人間が互いに協力すれば、それだけ脱出の可能性が高まるという。
  • <機械>であることを止めるためには、自己を見つめることが必要である。グルジェフは、各人には複数の<私>が隠れているといい、自己同一性を幻想とみなす。そして、人間は、<食物工場>のビルディングのように、3Fに知性センター、2Fに 感情センター、1Fに動作センター、本能センター、性センターがあるが、通常の人間はこれらのセンターの働きが非能率で、交互の調和が欠如しており、互いに他のセンターのエネルギーを盗用し、エネルギーを無駄に放出しているという。バランスを欠いた人間は、どこのセンターに重心があるかによって、人間第一番(運動・本能の人間)、人間第二番(感情の人間)、人間第三番(思考の人間)となるが、彼らには内的統一と意思が欠如しているという共通点がある。これらのセンターが適正に能力を発揮し、センター間で調和のとれた発展がなされたならば、3Fに象徴を言語とする高次の知性センター、2Fに神話を言語とする高次の感情センターをつくりだすことができる。
  • グルジェフは、人間の意識状態を分類し、睡眠、通常の覚醒状態、自己意識、客観意識に分類する。高次の意識状態である客観意識に達することは、至難であり、この状態を維持することは、さらに難しい。グルジェフによると、通常の人間は、(a)注意力を外界に向け、内面状態への意識がないこと、(b)嘘(たとえば知識だけで理解にまで至っていないなど)、(c)無用のおしゃべりによって、低次の意識状態に繋ぎ止められ、覚醒に至らないという。
  • グルジェフは、『ベルゼブブの孫への話』の中で、低次の意識状態から覚醒しない人間をSF仕立てで説明している。つまり現実を混乱して捉え、外的印象を楽しさや喜びの素になる情報になる特殊器官(クンダバッファー)を植えつけられていた記憶があり、現在はそれが除去されているにもかかわらず、それが植えつけられているかのように習慣づけられているのである、と。グルジェフは、後天的に獲得される<人格>の影に、その個人に固有の先天的な <本質>があるといい、この<本質>が各人の個体性に発現してゆくと考える。

要するに人間は、ある刺激に対して、決まりきった反応しかできない、あるインプットがあったとすれば、決まりきったアウトプットしか出てこないコンピュータプログラムに操られる機械のごときもので、それぞれのインプット→アウトプットという、多くの"私"が経験に基づいて、単純に反応しているだけの存在である、と私は理解しています。この状態からの脱却を目指したものが、グルジェフワークと言われるシステムです。

私は、彼の思想について、これ以上詳細には語れませんし、上記の説明もインターネットからの孫引きですので、彼についてもっと詳しく知りたい方は、インターネットや彼の書籍を読まれると良いかと思います。

私が読んだ書籍は、「注目すべき人々との出会い」と「ベルゼバブの孫への話」の2冊です。

 

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